みたび 卯月のこと 


1日(木)なんとなく人恋しい日。プールのジャグジーで上がろうと思ったところにエイコさんが現れたので、少し話をしてお風呂に向かったら、途中で入ってきたハルコさんと出会った。
 一瞬戻ろうかと思ったけれど、手を振って別れた。
 こんなに誰かに会いたいのに、タイミングが悪いこと。
 
帰ってから庭の蕗を取って、じゃことおかかの炊き合わせを煮た。今年の初物だ。
 サイドボードの中からレミーマルタンを一つ見つけたので、蓋を開けたら、からからになっていたコルクが千切れて、瓶の中に散ってしまった。
 仕方なく茶漉しで濾して、思いつきでリンゴを煮たら、美味しい。
 夕方になって寸法直しを頼んでおいたAURAに電話をしたら、未だ出来ていないという。
 
「なにしてんの?」「蕗を煮てるの」「やったね」彼女はもう蕗が手に入ると思っている。

話しているうちに遊びに行きたくなったので、出来た蕗の佃煮とリンゴのブランディ煮を持って出かけて行った。
 3月が記録的な売り上げの悪さだったと彼女は諦め顔。

「元気?」「退屈で死にかけてる。あなたは?」「売れなくて死にたいよ」

 お互いに意気消沈している同士で話が尽きず、しゃべっているうちに周りの店はどんどんシャッターを下ろして帰って行った。
 これほど売れないことは初めての経験だという。でも今日から新年度なので、駅の周りは人でいっぱい。
 長い行列が何かと思ったら、定期券の売り場だった。
 4月がいい月になればいいけれど……。夜になってベランダの物干し台が倒れるほどものすごい風。
 遅ればせながらの春一番かしら。それとも……春二番?

2日(金)一晩中荒れ狂った空は、朝になってますます勢いづいて、とどまるところを知らず。
 雨が小康状態になった時を見計らって整骨院に行ったら、流石にガラガラだった。
 踏切の開くのを待っていたら、はるか遠くから飛んできた空のペットボトルが、あっという間に私の足にぶつかって、そのまま駅のスロープを一気に上がって消えて行った。こんな強風は珍しい。
 素敵なファッションの若い女性が、完全におちょこになった傘を、諦め悪く差して走っていく。
 それでも治療を終えて外に出たころには、さしもの降りも鳴りをひそめ、帰ってからは薄日が差してきたので、風で倒されてしまったスノードロップの花を、10本ばかり切り取って、仏前にお供えした。
 でも白い花はさびしい。晴れたら、赤い花を買ってこよう。
 今日私の着持ちは少々へこんでいる。

3日(土)この間クニコさんと約束をしたコーラスに出かけていく。20年も続いているという30人ほどのグループに入るのはちょっと勇気が要った。
 少人数で長く続いている仲間と言うのは、結束が固くて、簡単には外部の人間を受け入れないケースが多いのを知っているので。
 でもバッハのクリスマスオラトリオという曲目に惹かれて出かけて行った。久しぶりの3時間歌いづめで、最後には高い声が出ず、我ながら音痴。もうソプラノは無理みたい。
 帰りはまっすぐに帰宅。帰ってから大急ぎで食事をして(今夜は冷蔵庫のニラと葱、生姜、おかか、卵、それに豚小間で、お好み焼き)、AURAに息子から言付かったイタリアの食材のサンプルを届けがてら遊びに行った。これはだいぶ前からカクマッツァンさんに頼まれていたもの。輸入の服の売れ行きが悪いので、イタリアの食材を売ろうかという話。

 桜は昨日の雨と大風にも負けず、しっかりと幹にしがみついている。街は夜桜のお花見客で賑わっていた。
 でもアーケード街の店は閑散としていて、ちょっとしゃべっているうちに、今日もどんどんシャッターを下ろし、帰る時はAURAだけが開いていた。
 ヨーロッパの輸入品の服を扱っている彼女の店はご多分にもれず、この不景気風のあおりをもろに受けているらしい。

4日(日)今日もやっぱり寒い。床暖房をつけっぱなしにしているので、今月の電気代が恐ろしい。
朝のうちに大急ぎで先月分の日記更新のための作業に取り掛かる。
 パソコンの脇に置いてある電気ストーブのスイッチが昨日突然ばかになってしまい、席を離れるたびに元からコンセントを抜く手間が面倒だけれど、これだけは手を抜かない。火災報知機を鳴らしたくないものね。
 お昼にパソコン師匠のカズコさんと食べた冷凍食品のカレー、美味しかったな。これまた取り寄せよう。
 夕方になって帰られるカズコさんを送りがてら坂を降りたら、遊歩道の少し色あせた満開の桜の下は、酒盛りのグループがいっぱい。ただ歩いてるだけのお花見のほうが、私は好きだけど。
 ユニクロで590円のTシャツを3枚買った。黒、ピンク、それにクリーム色。
 シャツの淡い色合いに気持ちをそそられて、帰りの通りがかりに花屋さんに寄って、黄色と藤色のスイトピーの束とオレンジのアルストロメリアを1本、これは旦那のために。
 
 昨日来て冷蔵庫を覗いた息子が「からっぽジャン?」「そうなの、ちょいと倹約生活でね」と話を交わしたまま忘れていたら、今日冷蔵庫の中にベーコンの塊が入っていた。
 そういえば今朝起きた時、リビングのテーブルに煎茶、スープ、海苔、インゲン豆……おまけに喜界島の黒糖アンダギーなどが差し入れられていた。
 愛(う)い奴じゃ!
                     
5日(月)整骨院での会話。
 患者A「この間N先生に治療してもらって、すっごくよくなったの、その前にS先生にやってもらった時は気持ちよかったけど、そんなに効かなかったのよね」
 N先生「………」私「そんな、本人の居る前でそんなこと言ったら傷ついちゃうわ」N先生、困ったように、
 「患者さんはねえ、……患者さんはねえ…」
 S先生「あ〜、言われちゃった」
 周りでみんなけらけら笑っている。この雰囲気で、この整骨院に通っている人たちは元気になるらしい。
 午前中にたっぷりと元気をもらったので、今日のデイホームも皆様に元気を配ってきた。
 今月から火曜日も出来る限り行く約束をしてきた。だから、明日が晴れますように。
 今日はデイホームの帰りに、回り道をしてユニクロで昨日買ったTシャツを追加で2枚買ってきたけれど、一枚はサイズが小さくて、これは誰かにあげることになりそう(迂闊にもMサイズは無理と思いつつ…)。
 しかも日曜日に590円だったのが、2枚1,700円だった。

6日(火)今日から火曜日のボランティアを始めた。月曜日と同じ1時半からの音出しで、1時間たっぷりと歌う。
 同じデイサービスなのだけれど、月曜日と火曜日で雰囲気ががらりと違うことに気がついて、これは興味深かった。
 月曜日のメンバーはもう、8年以上のお付き合いで、気心が知れている分、親しみやすいけれど、その分言いたい放題という感じでもある。
 火曜日は少しばかりおすましさんが多いというのが、第一印象だったけれど、歌い出したら積極的で、後半のリクエストにも良い歌をいっぱい出してくださって、なにより可笑しかったのは、一曲歌うたびに拍手が起きることだった。
 上手に歌えた自分を褒めてあげたい、というところかしら。月曜日の男性軍はあまり歌わず、その間黙々と囲碁を楽しんだり、たばこを吸いに庭に出たり、とかなり自分の世界に入っているけれど、火曜日は男性のほうが積極的で、中には指揮をしたりする人が居て面白い。帰りには皆様が手を振ってくださり、気持ちよく帰途に就いた。
 来週が楽しみ。帰ってから今日整骨院に紹介する約束をしたヤスコさんと駅で待ち合わせ。
 今目黒にいる、と電話をもらって、大急ぎで駅に向かったけれど、何台の電車をやり過ごしても、現れない。
 目の前を急行電車が突っ走って行ったので、さてはこれに乗っているな、と思ったら、案の定。
 田園調布から戻ってきたって5分なのに、30分待たされて反対側の線から悠然と降りてきた。
 ヤスコさんは「むかしお嬢様」でのんびりしているんだものね。
 帰りに寄って頂いて6時過ぎまでお喋りタイム。帰ってからお夕食の準備に忙しかったことだろう、おかずを分けてあげればよかった、と後になって気がついた。
 今日やっと庭と表からの通路にフェンスが取り付けられた。これですこしほっとする。

7日(水)おととい電話で、植木屋さんが「柚子の木が入りました」、と言ってきて、今日植えに来てくれた。
 これは今年中に食べられる樹、と注文をつけてある。
 今日は前もってのお約束通り、ミワコさんとマチコさんがご到来。私は昨日から五目ちらし寿司の下ごしらえをして待機する。
 ちらっと横目で見たお寿司屋さんのほうが絶対美味しいに決まってる、と思いながらも、せっせとおしつけがましいお接待の準備をして、なんだかほくほくとしているのだ。
 作りついでに隣の2軒の村民たちのためにもと思いついて、酢飯を余計に炊いた。
 途中で美容院帰りのヨウコさんも合流。私としてはしばらくぶりのおもてなし料理だった。冷たい雨の一日となったのは雨女のマチコさんのせい。だけど雨が降ろうが槍が降ろうが、私にとっては関係ないこと。
 座っていてお友達が来てくださるなんて、こんな素晴らしいことはない。
 そんなにたくさん食べたわけでもないのに、今夜はおなかがいっぱいで、お昼の残りの白菜鍋と、昨日から残っていたみたらし団子を1本食べて終わりにした。
 それなのに、旦那の介護で最大7キロ減った体重が、着実に戻りつつあるのは恐ろしい話。

8日(木)かねてからの約束通り、2月に103歳でお亡くなりになったレイコさんのお母様の為に、アツコさんと鳩居堂へお線香を買いに行く。
 その前にアツコさんが7月の円楽の寄席のチケットを買いに行くと言われたので、私の分もお願いする。
 柿の木坂のパーシモンホールで10時から売り出しというのに、9時半に行ったら35番目だったとか。
 渋谷で落ち合って、新橋までのんびりとバスで行って、土橋際のモスバーガーでかんたんにお昼を食べてから、うらうらと暖かい銀座の裏通りを散歩しながら行く。
 「私緊縮財政だからね」、と言うと彼女は「爪を灯して手から落ちるからね」とけらけら笑う。
 銀座通りは例によって中国人の観光客が多い。角を曲がるたびに中国語が聞こえてくる、といった感じ。
 やっぱり銀座が好き、と日本橋育ちのアツコさんが目を細めて言った。
 私は横浜育ちだけれど、実家が多摩川に近い境目だったので、何かというと電車で30分の銀座に出かけていたので、いちばん懐かしいところなのだ。
 大通りに都電(当時は市電だった)が走って、夜になると表通りの柳の下に夜店が出ていた子ども時代のことが、走馬灯のようにぐるぐると回るという話になると、アツコさんと話がピッタンコなのだ。楽しい一日だった。

9日
(金)今週は背後霊の働きのいい週らしい。
 週明けから私にとってはずっとラッキーな時間が続いている。おととい来てくださったマチコさんが、サトイモとたわわな庭の花を届けにまたご来訪。
 サトイモは家で取れたのが裏にごろごろしていて、と一昨日言われたことに端を発して、まあ、もったいない、と残念がったところ、持ってきてくださるという。
 申し訳ないので上野辺りまで出向こうかと思ったのに、リクエストしたお餅などと沢山の重たい荷物を背負ってきてくださった。
 花は色とりどりのチューリップ、水仙、ライラックなどなど…。
 早速オトーサンの写真に飾ったら、華やかなこと。
 今日は急に決まったことなので、時間の余裕がなかったけれど、それでも3時間半ほど遊んで行ってくださった。
 例によって冷蔵庫の中身ででっち上げお昼を用意する。このパターンは我ながら要領がよくなった。
 夕方になって証券会社のイケメン君がご到来。私横書きのものに弱いのよ、と言ったら、そうでしょうね。と簡単に肯定されてしまった。
 旦那が残してくれたものを減らさないようにするのが、私の技量の限界なのだ。
 今夜は玄関に飾ったライラックが、高貴な香りをあたりに広げていて、とてもすてき。
 良い夢をみましょ。

10日(土)良いお天気で気温もすこし上昇した。こういう日は移り気になる。
 今日やろうと思っていたことが、溜まった洗濯物を干しているうちに、全部時間切れ。
 整骨院もプールもさぼってしまった。その代わりにマキちゃんが梅干を届けに来てくれて、夕方まで遊んで行った。
 マチコさんから、蝋燭立てのジャストサイズのを亀戸で見つけたから買ってきてあげるとメール。
 先月彼女が下さった小さな花柄の和蝋燭を、1本も使っていないのをこの間見とがめられて、お線香は蝋燭でつけなきゃと諌められてのこと。
 でも余りにも美しいこの蝋燭がもったいなくて、小さい蝋燭立がないことを理由にしていたのだ。
 こうなったら使うしかない。よろしくお願い、と返事を出した。今日は好天に恵まれて、きっと一人散歩を楽しんできただろう、いいないいなと思う。
 今朝6時に世田谷観音の朝市に行ってきたという娘が、美味しいものをこまごまと買ってきてくれたので、今日のご飯はリッチ。
 小学校の同級生だった男の子が現住職になって、立派になっていた、という。
 早い時期に背が伸びた娘と、少々小柄だったO君の姿が彷彿として面白かった。

11日(日)宅配便が届いた。お友達の息子さんの結婚内祝いだ。白い封筒が封をせずに入っていたので、開いて読んだらなんだかピンとこない内容だった。
 改めて封筒を裏返して見たら、宛先は知らない方。
 でも宅配便のあて先は私だし、差出人も知っている。どうやら手紙を入れ間違えたらしい。お祝いを差し上げてからかなりの日がたっていたので、忘れていたことだった。
 散々考えたけれど、お天気もいいことだし、行きたい展覧会もあったので、横浜のデパートに出向いて行った。
 どう対処していいか解らなかったけれど、届いた品物も返した。帰宅後にデパートの人が新しい品物を持って訪ねてきてなんだかお騒がせな一日。
 でも、とても迂闊な話だと思う。今回のことで、ずっと昔デパートに仏事とお祝いの品の発送を依頼したときに、双方ののし紙を間違えられて、大変な思いをしたことを思い出した。
 聞けば、デパートの係の課長さんは鎌倉とわが家を韋駄天走りして、向こうに間違えて届いたわが家宛ての手紙を取り戻してきたらしい。少しばかり気の毒だったけれど、当然な話だと思った。

                 

12日(月)昨日は少しばかりうっとうしい話に追われてしまい、もうひとつの幸せな話に到達しなかった。
 昨日横浜に行った本来の目的は、草乃しずかさんの日本刺繍展を見に行ったのだった。
 実はついこの間日本橋のデパートに見に行ったばかり。でもどうしてももう一度見たかった。
 今日は一人で心ゆくまで時間をかけて、じっくりと観賞できた。どう表現していいか解らないほどの、内面から沸々と湧き出てくるエネルギーが、静かに、それでいて情熱的に語りかけてくる。まさに天の贈り物というしかない出会いに、このところ少々元気がない私だったけれど、脳髄の隅々にまで染み通る浄化作用で、すっかり蘇らせていただいた。
 そして、昨日の晴れやかな空からは想像もできない、後ずさりして玄関先を戻って行ってしまった春にも、もうすがる気持ちすら消えてしまい、今日は自分を取り戻した本当に良い一日だった。

13日(火)予報はあったものの、今日の暖かさはいったい何?それも今日一日だけの暖気だという。
 朝、昨日印鑑を間違えてしまって、目的が遂げられなかった銀行に出向いて、坂を下りて行ったら、ついこの間饗宴を繰り広げる如くに咲き誇っていた桜並木は、半分が緑に包まれていた。
 でも目を凝らしてみると、少し褪せたピンクと若緑のコラボがなんともきれい!
 昼間人で溢れている緑道も朝は人影がほとんどなく、処どころのベンチで、花弁のシャワーを浴びながら眠りこけているホームレスさんが3人。これも絵になる。
 この辺のホームレスさんはお洒落だな、と思う。
今日は足の具合はだいぶ良く元気で歩いているつもりだったけど、近所のお米屋さんのご主人に出会ったら、
「どうしたの?足痛いの?」「え?わかる?」「だってビッコひいてるからさあ」「あらまあ、そんなに?、ところで奥さん最近見ないけどお元気?」「うん、元気だよ、髭生やして威張ってる」「あはは…」
 
 これだけで、帰ってからもしばらくにやにやと楽しかった。

14日(水)思ったほどの気温の変化はみられず、ほっとする。雨戸を開いたら躑躅の根っこの黄えびねが蕾を重たげに持ちあげていた。
 うかうかすると間もなく初夏に入るという4月中旬にして、東北地方では今日9センチの積雪の吹雪だとニュースが報じていた。
 なんだか地球が怒っているような気がするこの頃の気候変動は、人間の身勝手したい放題に対する天の鉄槌のように思われる。
 でもそんな中で、植物だけは裏切らずに季節の到来を告げてくれるのが嬉しい。
 今日は93回目のユトリーバ。私の良からぬ色気のために、考えたことが思うように運ばないこの数カ月だったけれど、なにも焦ることはないのだと、この頃になって気付かされている。このユトリーバだけを大切にしていこう、と思ったら気が楽になった。今日は9人のお客様。皆様とてもお元気で嬉しい。

15日(木)今日こそはと固い決意のうえで、プールに行く。
 もう2週間もさぼってしまっているのだ。今日は最高気温が6℃という寒さで、そのうえ雨まで降っている。
 最近気になっているのが、おばさんたちのマナーの悪さ。プールの中で固まってしゃべっていたり、今日のお風呂の中では、あまりの大声にバスタブに入るのを躊躇してしまったほど。
 だから、ロッカールームを素っ裸で闊歩するなんて平気の平左という手合いは、まだ許される。
 そんな人を今日少なくとも3人見たけれど、なんたって更衣室だから…。
オープンして最初のうちはこういうことがなかったのに、どうして?と不思議。
折角ストレスを解消しに行ったのに、いささかストレスを溜めてしまった。
 そこで帰ってからずっとテレビを視る。今日は巨人阪神戦、五能線の旅、仕上げはウイーンのシュテファン教会からのサラブライトマンのライブ。どれも楽しかったので、これで満足まんぞく……。

16日(金)プールで恐る恐る体重計に乗ったら、1.5キロ増えている。
 原因は運動不足とわかっているけれど、このところの体調不良では、いたしかたない。
 それなのに、食欲だけは確実に好調子とあっては増えないほうが不思議。
 でも癌の末期で見る見るうちに痩せてしまった旦那のことを考えた時に、「これでいいのだ」、と勝手に納得している。
 それにしても今年の天候はどうしちゃったのかしら。今日は東京の西部の山間部も雪が降ったという。
 自然の威力に慄然としてしまうほどの異常さは、いつまで続くのかしら。
 ニュースは、アイスランドの火山噴火で、水位が3メートル上がった、と報じている。
 そんな中で自己保身のためだけに大騒ぎしている政治家の世界が、ばかみたい。

17日(土)マチコさんから頂いたチューリップが、やっとのことで、という感じで花を落とした。
 この花は最初頂いた時には、まだ何色の花を咲かせるのかわからないほどの固い蕾だった。
 チューリップは毎秋、旦那がとても楽しみに植えこんでいたもので、本来なら今頃は庭の彩の役目をはたして呉れていたのに……、と頂いてそのことに気がついた。
 自分の庭で咲かせた花は、数に限りがあって、いつも花が開いてから摘み取っていたので、あっという間に枯れてしまっていたけれど、広い庭をもつマチコさんは惜しげもなく固い蕾を伐ってくださったので、家じゅうが華やかで、とても幸せな日々だった。
 今日は久しぶりに雨が上がって、一週間ぶりに溜まっていた汚れものを洗濯した。
 どうやら低気圧が退散したようで、いよいよ本格的な遅まきの春の到来かと、胸ときめく思い。
 隣の駅まで行ったついでに、最大限の半径を描いて、街を一回りしたら、あちらこちらで風景が変わっている。
 やっぱり不況の影響で、閉めてしまったお店がいくつもあるようだけれど、すぐに次のお店が入るのもこの町らしい。
 歩いていて、ふと食べたくなった大阪寿司を一折買って、今夜は超手抜きの食事。

18日(日)少し早いな、と思いながら、美容院に行った。カットに行くと細胞が活性化したような気分になって、元気になる。
 でも今日は少しショックだった。10年間憩いを求めて行っていたこの美容院が、9月でクローズするという。
 まだまだ脂の乗っている50代前半のご夫婦だけれど、双方の親ごさんのお世話のためだというのを聞いて、私にもそういう時期があったけれどよく乗り切ったと、改めて思った。
 まだ学校に勤めていた時期に、私の母が東京第二病院(今の医療センター)に入院しており、学校の帰りに病院に寄って夕食時間に付き合ってから、走って帰って舅のご飯を作るのが日課だった。
 よくタッパーを持っていって、舅のために母のおかずを分けてもらったっけ。
 今日は久々の晴れだったので、帰りに坂を下りて花屋さんに寄り、色とりどりのカーネーションと、淡いブルーのベラドンナ(これは別名があるけれど、ベラドンナという言葉が好きで、もうひとつの名前がどうしても覚えられない)を1本足してもらって家じゅうに飾った。
 去年10年目にして初めて花をつけたアメリカ花水木が、今年も花をいっぱいつけてくれた。
 見上げると空の色に溶け込んでしまって、花が咲いていることに気がつかなかったのだ。

いつから咲いていたのかしら?
                           

19日(月)日記を書きたくない日があるとしたら、まさに今日がそんな日。何故だかよくわからないけれども、今日は私にとっては厄日だったらしい。
 朝体操に行ってそのまま整骨院に行ったけれど、とても混んでいたので、物療だけやって一旦帰り、午後になってデイホームに行き、その足で町へ出て銀行に行った。振り込みをしようと思ったら、支店名が見つからない。
どこで間違えたのか、目的を果たせず、そのままひとまわりしてもう一度整骨院へ。
 そのころから耐えがたいほどの足の痛みが襲ってきた。
 結局治療の甲斐もなく、夜になるまで痛みは収まらない。
 もっとも歩かなければ痛くないので、これは痛み止めを飲んで効くという種類のものではない。
ただじっとお風呂に浸かって、あとはパスタノーゲンをべたべたと塗るしか方法がない。明日の朝もし痛みが治まらなかったら、クラス会に行くことも無理かも。あ〜あ、やんなっちゃうなぁ。

20日(火)ゆうべ出来る限りの方法で、足のご機嫌を取ったお陰で、今朝はほんのすこし痛みが弱まった。
そこで予定通りクラス会に出席することにして横浜駅に隣接するベイシェラトンホテルに出かけていく。今年の出席は22名とか。う〜、痛い、と呟きながらも皆に会いたくてやっとの思いで辿り着いた。
でも、すくなくとも口だけは皆元気なこの集まり、とても嬉しく楽しい会だった。
 ここのお料理は典型的な懐石料理で、爪の先ほどの着飾った貴婦人みたいなお料理がちまちまと出てくる。
 物知りに言わせると、時間をかけてすこしずつのメニューが出てくるのは、日本料理屋の陰謀だそうだ。
 ちびちびとままごとのようなお料理を食べていると、お腹がいっぱいになった錯覚に落ち込む。
 でも今年は卒業以来初めて京都から出てきたKさんや、これが2回目の出席というNさんなど、懐かしい顔が見られてそれだけでも充分満足した。
それにしても皆いい歳の取り方をしたなあ、と思う。愚痴や悪口が全く出てこない。皆現在の境遇に満足しているらしい。なんだか笑いっぱなしの3時間だった。
 2次会でまた時間を取ってしまって、整骨院にいく時間がなくなってしまい、まっすぐに帰宅。
 帰り道ではまた雨となった。

21日(水)なんのアポもなしに、不意に春が訪れた。ノックもせずに……。
 まだ痛い足をなだめつつ、でもこの陽気には家に籠もっていたくない。二つの銀行に出かけて行ったら、街はすっかり初夏の陽気で、北欧系の言葉をしゃべっている外人さんが袖なしで、思わずまぶしさに目をそらしたくなるような、真っ白に光る肌をあらわに闊歩していた。
 待ちに待った季節という感じだけれど、これでは来週は「夏が来ぬ」でも歌わなくっちゃ。
 うかうかしていたら、あっという間にクーラーの恋しい季節になってしまいそう。今日の温度は25℃とか。でも明日はまた15℃下がると予報が言っている。どうしちゃったのかしら、誰かこのすねっぱなしの地球のご機嫌を直してくれる人はいないのかしらね。
 2階にいたら隣の部屋のあたりで、コトリ、と音がする。隣は雨戸を閉めっぱなしの旦那の部屋。
 あれ?と思って覗いてみたけれど、もちろん誰もいない。
 でも彼ったらまだ確実に、この家のどこかに隠れているらしい。毎朝彼の作った「ユトリーバに乾杯!」の歌を写真の前で歌ってあげると、にこにこと笑うのだ。
 そんなに嬉しいんなら、ずっとずっと歌ってあげますよ、と言ったら、もっと笑った。赤ん坊みたい。
 夕方になって、ミノ夫妻が筍を持って来訪。あらあら、明日はまち子さんからも送ってくださるというのに、筍大尽になってしまいそう。

22日(木)まさに冬と春との闘いでもあるようなめまぐるしくも移り気な空は、その勢いの衰えをしらず、これはいっそ自然と人との闘いの域に入ったような超不順な季節が続いている。
 そして私は昨日から筍との戦いを繰り広げていた。
 昨日ミノ夫妻が持ってきた筍は彼と彼女が手を貸してくれて、どうにか形がついた。
 そして今日はまち子さんからこれは超一流の、お湯を沸かしておいて掘ってきたという、逸品がたくさん送られてきた。
 筍が大好物の私としては、もう「うはうは」と笑うしかない。
 教わった通りに水を張って冷蔵庫に格納。毎日水を換える、との指示を守れば、ずっとずっと初夏まで楽しめそう。
 早速おかかと若布で煮て、わが村民に配給。「煮てある」というと大喜びで取りに来る無精者がそろっているのだ。
 今日は(今日もというべきか)冷たい雨が一日中降り続いて、外に出る気もしないけれど、夜になってサイズ直しを頼んでおいたスカートを取りにAURAに出向く。
 彼女がしょぼくれていると思ったら、お友達が亡くなってお悔やみにいこうと思いつつ延ばしていたら、今度はそのご主人が亡くなったとか。
 どうやら後を追われてのこと、と聞いて、まあ、なんと誠実な方だこと!とわが身を振り返って思った。
 春になればいそいそと新しいツーピースの着心地を楽しんでいる私を、旦那は天国で苦々しく思っているかも。

23日(金)今日も冷たい雨が降る。今日はお昼の食事会で、白金の都ホテルのいつもの中華料理店。昨日出来てきたサーモンピンクのツーピース(実はスカートがぴちぴちで、幅を出してもらったのだ)で、私はご機嫌。
 この会はそもそもが夫の同窓会のグループだけれど、いつの間にか女性だけの会になってしまった。
 それでも10人のいつものメンバーは皆様とてもお元気。やっぱり古いお付き合いはいいもの。
 今日は帰りに渋谷のサチコさんのところに行く約束だったので、皆様が腰を上げ始めたのを見て、タクシーに飛び乗った。
 一足早く到着して、クラス会の幹事のまとめをやっていたツルコとも合流。夕方までのんびりと遊ばせて頂く。
 すっかり暗くなった渋谷の街は、若者でいっぱい。
 送ってきてくださったサチコさんに手を振ってバスに飛び乗り、家にたどり着いて着替えたところにチャイムが鳴った。
 この時間にくるのは宅急便?と思ったら、なんと、さっき別れたばかりのサチコさんだった。
 ツルコが美味しい焼売を下さったのに、サチコさんの冷蔵庫であずかって頂いていて、忘れて帰ってしまったのを、電車で届けに来てくださったのだった。もう恐縮至極、と10回くらい頭を下げる。
 今日はお昼の中華料理に加えて、サチコさんのところでお茶をして、おなかがいっぱいだったけれど、2人の友のために早速食べてしまった。美味しかったなあ。

24日(土)やっと晴れた。昨日、(いくら空の意地悪神様が頑張ったって、4月も終わりというこの時期にそうそう頑張れるものでもないでしょ、いい加減に往生しなさいよ)、と空に向かって声に出さない嫌がらせを言っていたのが、届いたのかな?
 朝整骨院に行ったら、30分待っても番が回ってこない。読んでいた本の字を宙に飛ばして、あれこれと考えをめぐらした揚句、パタンと本を閉じて、月曜日に出直します、と帰ってきてしまった。
 どう考えてもこの時間がもったいない。それよりはプールに行こう、と決心したから。
 1時間水の中を歩いてから家に帰り、午後になって、キョウコさんのところに約束通り出掛けて行く。
 駅で落ち合った彼女が、驚異的に安いスーパーを教えて下さり、重い荷物を持ちたくないので、400グラムの信州味噌とシメジを買ったら、合わせて136円也!
 これは片道120円の電車賃を使っていっても価値がある。よしよしこれからの行動半径をこのスーパーの買い物で広げようと楽しくなった。
 キョウコさんのお宅の2階のテラスで、たわわに花をつけている、シンビジュームを2本頂いて、これは嬉しいこと。
 勿体ぶりながらくださった小さな月餅は、1個 500円だと。明日の楽しみ。
 夜になってBS朝日で「居酒屋ゆうれい」というコメディ映画を見た。死に別れた奥さんが後妻さんに乗り移るというおはなし。
 うちの旦那ちゃんが、幽霊になって出てきたら歓迎してあげるのに、でてこないなあ……。

25日(日)やっと空模様が定まった感じで、朝から暖かい陽ざしがやんわりと包みこんでくれる。
 一人暮らしで洗濯は一週間に1回のペースとなったけれど、今日はその溜まった量と晴れ具合がぴったんこマッチして朝からいそいそと取りくむ……といっても、目が覚めたのが9時15分!
 でも、24時間を一人で独占できる今となって、もはや慌てることはない。午後になって筍ご飯を炊いている間、庭に出る。
 紅蜀夷の去年の枝がそのままに朽ちているのを、鋏で取りながら、一瞬躊躇した。
 この花の支柱は、去年の夏、亡くなる数週間前に、病院の外来から帰ってきた旦那が家に入る前に立てたものだった。
どんどん伸びてとどまるところを知らぬ、この夏の紅い花を、今年はもう咲かせるのはやめにしよう、とひそかに思っていたのだけれど、この種を分けてくださった友人のマリコさんも、今年の元日に突然この世に別れを告げてしまったことを考えて、思いとどまり、根を掘り起こすのは止めにした。
 いとまを告げることを忘れて、いつまでも居座っていた冬にも負けず、庭の花たちは地中で着々と出番の準備にいそしんでいたらしい。
 ついこの間摘み取って煮た山椒の芽は1週間の間にまた伸びてきた。わが家の歴史そのもののようなこの木の、春から初夏の新芽、そして、秋口の青い実は旦那の楽しみでもあった。
 この新芽と実がどれだけたくさんの人を喜ばせたことか。それなのに、去年はとてもとてもこの実に愛情を注ぐ余裕がなくて、取り残した実が黒く頑なな姿をさらしている。
 ごめんね、とそっと手を合わせて、その子たちを出来る限り鋏で摘み取って、ことし2回目の新芽をざるいっぱい収穫した。
 山椒が大好物と言われて、去年もおすそ分けした旦那のお友達のシノダさんが、とても暖かい慰めのお手紙をくださったのをお返事も出さずそのままにしていて、とても気になっていたのを思い出し、そうだ、新芽を佃煮にして遅まきながらのお礼状と一緒にお送りしよう、と思い立った。春は気持ちが柔らかくなって好き。

                       

26日(月)朝夕の気温の変化はあるものの、日中のうらうらとした春の太陽に誘われて、気持ちもポジティブになってくる。
 数日前に届いたまま封も切らずに放りだしておいた旅行社のパンフを捨てようと思い、何気なく開いてみたら、一人参加限定の日帰りバスツアーがある。
 行く先は駿河湾のクルーズでのお寿司1.5人前(1.5人前というところが泣かせる)と、新茶詰め放題、それにばら園見学とある。そうだ、これに行こう、旅の誘惑に駆られながらも、人様を誘うのは迷惑かもしれず、と考えていたところで、まさにお誂え向きのものを見つけた。
 序でに別のページにあったウクライナオペラのチケットも、これは秋の公演だけれど、申し込んだ。
 これからは人を頼らずに一人で遊ぶ方法を積極的に見つけようというのが、私の今の固い決心。
 大体「未亡人」とい肩書に腹をたてているのだ。「いまだに死なない人」〜なんちゅうことぬかしよるねん〜、関西人だったらそう言って怒るところだろう。
 今の私は新しい希望が見えてきて、死ぬなんて考えたこともおまへんでぇ!
あそぼ、あそぼ、一人であそぼ。

27日(火)雨!もはや余計な修飾語は書く気にもならない。ひと言でも「寒い」なんて呟くものなら、「冬」の奴めの思うつぼ。手を叩いて人間界をあざ笑うだろうと思うから、何も言わない。でも、風邪をひいたりしたら、相手の戦略に嵌ると思って、黙って一枚余計に着こむことにした。
 朝プールで50分間休まず歩く。今日は疲れたなあ。家に帰ったら玄関に何かがぶら下がっている。手に取ったら懐かしい字でメモが書いてある。熊本のスミ子さんだった。本門寺の瓦煎餅が入っているところをみると、上京してご両親のお墓参りに行ったらしい。
 会いたかったのに!プールのお風呂でのぼせて、なんだかぐったりした体に喝をいれて、デイホームに行く。
 火曜日の人たちの元気なこと。入った途端に拍手で、思わずやめて!と叫んだけれど、熱気にあおられてこちらもすっかり元気になった。
 今日は夜までずっとBSの旅番組を見て過ごした。懐かしいところばっかり。

28日(水)電子音で目が覚めた。はて、この音は何だろうと、しばし朦朧とした頭で考えて、メールの音だと気がついた。
 今日こそは早起きをしようと思って、目覚ましを6時半にかけておいたけれど、まだ目覚ましは鳴らない時間だった。
 なんだかとっても得をしたような気分で、雨戸を開けたら、昨夜からの冷たい雨が、凝り性もなく、といった感じで同じリズムを刻んでいる。
 昨日は整骨院をさぼってしまい、今日こそはと思っていたので、しめしめ、今日は空いているだろうと、嬉しくなった。
 午後になってこの間から何度も電話を入れてきていた古物商の人が、獲物を求めて、といった感じで現れたけれど、もうほとんど始末した後で、ちょっとがっかりしたようだった。それでも古い本などでこちらの思い通りに近いお小遣い稼ぎをしてしまった。
 何より置き場がなくて困っていた大きな桐の火鉢の、中がすっかりはげたものも持って行ってくれて、すっきりした。向こうもきっと損はしなかっただろうと思う。
 それにしてもよく降るなあ。地球の水分の大移動、といった感じ。


29日(木)去年に続いて今年も花水木がきれいに咲いた。2、3日前に開いて、2階の窓からとても楽しく見ていたのだけれど、今朝気がついたら、お向かいの八重桜が満開だった。うちの子が子供から少女になりかけだとすれば、これはもう、ド派手な奥様といった感じ。これはこれでとても綺麗だけれど、ハナミズキちゃんの淡いピンクが一層楚々として見えるのもとてもいい。寒さにためらいつつ茎を伸ばしていた黄色いエビネも、ついに昨日開いた。
 例年に倣って、今年も山椒の佃煮作りに勤しんでいるけれど、今年の枝がいつもよりも刺々しいのは、どうしてかしら?


30日(金)昨夜のことだけれど、娘が映画に行こうと誘ってきた。もちろん直ぐのる。
川崎のチネチッタという、要するに「映画の町」というのは、いつ頃出来たのかしら。わが家からそう遠くない川崎だけれど、めったに行かないので、興味深々で出かけて行った。
「オーケストラ」という映画は「ノダメカンタービレ」のフランス版との前評判だったけれど、とても面白かった。ぜったいお勧め。
もし、ゴールデンウイークにおひまの向きの方は、ぜひ見に行って!